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熊本地方裁判所 昭和46年(行ウ)10号 判決

八代市若草町一四番六号

原告

水野登

右訴訟代理人弁護士

籔下晴治

同市花園町一六番地の二

被告

八代税務署長

井之原正典

右指定代理人

渡嘉敷唯正

三宅雄一

永杉真澄

中島清治

山口昭

須藤重幸

村上悦夫

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告が昭和四四年一一月七日付でなした、原告の昭和三九年度、同四〇年度、同四一年度分の所得税についての各再更正処分、重加算税賦課処分のうち、昭和三九年度分の課税総所得金額一三三万〇、〇九〇円、所得税額二六万二、〇〇〇円を超える部分、昭和四〇年度分の課税総所得金額三〇三万六、一九五円、所得税額八六万二、四〇〇円を超える部分、昭和四一年度分の課税総所得金額三八五万九、八五二円、所得税額一一三万一、一七〇円を超える部分、及び各年度の重加算税賦課処分はいずれも取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、 請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は金融業等の業務に従事するものであるが、その昭和三九年度、四〇年度、四一年度分の所得税について、被告に対し別表(一)記載のとおりそれぞれ確定申告をなしたところ、被告は昭和四二年五月一九日付で別表(二)記載の如く更正し、さらに昭和四四年一一月七日付で別表(三)の再更正額欄記載のように再更正並びに重加算税の賦課処分をなした。

2. 原告は同年一二月六日、被告に対して右各再更正処分及び重加算税賦課処分について異議を申立てたが、被告は昭和四五年三月五日付で右申立てをいずれも棄却したため、原告は同年四月四日付で熊本国税局長に対し審査請求をなしたところ、国税通則法の改正(昭和四五年法律第八号)に基づき、国税不服審判所長において昭和四六年四月三〇日付で別表(三)の裁決額欄記載のとおり一部取消しの裁決をなし、その旨原告に通知した。

3. しかしながら、原告の金融業による各年度の営業所得は次のとおりであって、これに各年度の不動産所得あるいは給与所得を加えて基礎控除額を差引いた課税所得額及び所得税額は請求の趣旨記載の如くになり、本件各再更正処分(前記裁決によって取消された部分を除く。以下同じ)には原告の所得を過大に認定した違法がある。

昭和三九年度 一四五万一、三六〇円

同 四〇年度 三二二万〇、〇六五円

同 四一年度 三五〇万八、四五三円

又、原告としては、利息収入の計上をもらし、所得を仮装隠蔽した事実もないのであるから、重加算税の賦課処分(前記裁決によって取消された部分を除く。以下同じ)はいずれも理由がなく、違法である。

4. よって原告は被告に対し、本件各再更正処分のうち、前記原告主張額を超える部分及び重加算税の各賦課処分の取消しを求める。

二、請求原因に対する答弁

1. 請求原因第1、2項の各事実は認める。

2. 同第3項の事実は否認する。

3. 同第4項は争う。

三、被告の主張

1.(一) 原告は金融業等にかかる帳簿書類などの備付けを全くしていなかったので、被告は、原告の貸付先を個別に把握したうえ、貸付先の申立、抵当権設定等の法務局資料、和解調書等の裁判所資料などから原告の収入を計算し、所得を算定したものであり、原告の昭和三九年分から昭和四一年分までの所得金額は別表(三)の被告主張額欄記載のとおりであっていずれも国税不服審判所の裁決額を上まわるので、被告の処分には何ら違法はない。

(二) そして、右の昭和三九年度分から同四一年度分までの原告の金融業にかかる各総収入金額の内訳は別表(四)のとおりであり、そのうち原告が争う堀端アツ子(昭和四〇、四一年度分)、合資会社水本商会(昭和三九年ないし四一年度分)、有限会社木崎製材所(昭和四〇年度分)からの利息収入については、次のとおり認定した。

(1)  堀端アツ子(以下「堀端」という)に対する昭和四〇、四一年度分の利息収入について、

イ 原告には堀端への貸付にかかる帳簿書類などの備付けが全くないので、被告は債務者である堀端を調査し、同人が有限会社観光喫茶粋扇(以下「粋扇」という)の代表取締役であり、同人の原告からの借入金はそのまま粋扇に融資され、粋扇においては、当該借入れを「堀端アツ子からの借入れ」又は「水野からの借入れ」として総勘定元帳の借入金勘定に記載しているところから、同借入金勘定の元本に月六歩の割合でそれぞれの返済までの期間に応じて計算した金額を原告の同人に対する貸付金の利息収入と認定したものである。

ロ 原告は、粋扇の総勘定元帳の借入金勘定のうち「水野からの借入れ」と記載されているものだけが実際に貸付けたもので、「堀端アツ子から借入れ」と記載されているものは堀端個人が粋扇に貸付けたもので、原告とは何らかかわりを持たないものであると主張するが、「堀端アツ子から借入れ(又は返済)」と記載のあるものも「水野から借入れ(又は返済)」と記載されているものと同様に、原告からの借入れ又は返済であることは、以下述べるとおり明らかである。

a 粋扇の総勘定元帳の借入金勘定に「堀端アツ子から借入れ(又は返済)」と記載したものも、全て原告からの借入れ又は原告への返済を意味するものであることは堀端自身が国税副審判官の質問に対して明言しているところである。

b 堀端は昭和四四年六月二五日に八代信用組合から五〇〇万円を借入れており、即刻原告にうち四八〇万円を支払っているが、これは原告の堀端に対する貸付が昭和四〇年一一月までではなく、昭和四四年六月まで継続していたことを意味する。

c 粋扇の昭和四〇年七月一日から昭和四一年六月三〇日までの事業年度の申告に対し、被告は堀端からの借入金一四〇万円を否認したが、これはその資金の出所が不明で、堀端にさしたる所得、資産がないにもかかわらず粋扇に多額の貸付けがあることから、被告係官においてその資金の出所をただしたが、同人からの納得のいく回答が得られなかったのでやむを得ず資金出所不明として収入金除外したものであり、このことは右貸付金が原告から融資されたものでないとか、堀端において粋扇の売上げを隠蔽したとかの事実を積極的に認定したものではない。

ハ さらに、収入利息について、原告は約定利息はいずれも月三分で、昭和四〇年中に受取った利息は二二万八、〇〇〇円であると主張するが、それは粋扇の総勘定元帳の借入金勘定のうち、「水野から借入れ」と記載されている借入金元本に対するものだけであり、前述のとおり「堀端アツ子から借入れ」と記載されたものも原告からの借入金であるから、その分の利息も原告の収入利息に加えるべきであり、原告の主張には理由がない。又、堀端の陳述をもとに、利率は月六分の割合で算出し、利息はその都度支払われ、未払金(原告にとっては未収利息)はなかったと認定した。

(2)  合資会社水本商会に対する昭和三九年度分、同四〇年度分、同四一年度分の各利息収入について

原告には右水本商会への貸付にかかる帳簿書類などの備付けが全くないので、被告は債務者である水本商会の社員で、事実上の経営者であった訴外水本英子及び同人の夫で同社の代表社員であった訴外水本澄夫について調査し、両人の申立て等に基づき、別表(五)のとおり原告の同社に対する貸付金の利息収入を認定した。

原告は、水本商会に対する貸付金は利息を加算して元本に切替えたことによって増大したもので、現実に利息が収受されたものでないと主張するが、少なくとも被告が認定した利息収入は現実に収受しているものであり、被告の課税は適法である。

(3)  有限会社木崎製材所に対する昭和四〇年度分の利息収入について

原告は右木崎製材所への貸付にかかる帳簿書類も備付けていなかったので、被告は債務者である同社について調査したが、同社は昭和四一年ごろから倒産状態となって実質上存在せず、さらに同社の代表取締役であった訴外木崎勲も静岡方面に転出したため、同社についての原告の貸付利息を具体的に究明することはできなかった。

しかしながら、同社の昭和四〇年一月二七日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税の確定申告書に添付した勘定科目内訳明細書の「借入金および支払利子の内訳書」によれば、同社は同年一二月三一日現在において原告から一六五万円の借入金があり、昭和四〇年中に一四〇万一、〇〇〇円の利息を原告に支払っていることが認められる。

従って、右金額の利息収入を原告が同社から昭和四〇年中に収受したものと認定して課税したものである。

2. 重加算税の賦課決定について

原告は金融業等にかかる帳簿書類を全く備付けず、貸付事実を証する資料等を意識的に破棄し、調査の際にも堀端アツ子の経営する粋扇との取引関係は全然ないと答えるなど、全く非協力的であり、又取引銀行において偽名預金を事業のため使用し、金融取引における原告の債権に第三者の名義を使用し、昭和四一年に開業した旅館名義を第三者名義にしてその所得を申告せず、課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部を隠蔽仮装し、それに基づいて納税申告書を提出していたものであるから、被告は国税通則法六八条一項の規定により重加算税を賦課決定したものであり、当該処分に違法はない。

四、被告の主張に対する原告の答弁

1.(一) 被告の主張第1項(一)の事実中、原告が金融業にかかる帳簿書類を備付けていなかったこと、及び各年度における必要経費、不動産所得の額、昭和四一年度の旅館営業所得、給与所得の額は認めるが、各年度の金融業にかかる総収入金額及び差引所得金額、総所得金額はいずれも否認する。

(二) 同項(二)の事実中、堀端アツ子に対する昭和四〇年、四一年分の利息金額、合資会社水本商会に対する昭和三九年ないし四一年分の利息金額、有限会社木崎製材所に対する昭和四〇年分の利息金額は以下に述べるとおりいずれも否認するが、その余の利息収入金額は全て認める。

(1)  堀端アツ子関係について

イ 原告が堀端に貸付けたのは、昭和四〇年五月一八日に二〇万円、同月二〇日に二〇万円、同年六月九日に二〇万円、同月一五日に二〇万円、同年九月一八日に三〇万円、同年一一月一日に一五〇万円、合計二六〇万円だけであって、このほかに同人に金員を貸付けたことはない。そして原告は同人から、同年一一月二七日に、同年九月一八日までに貸付けた合計一一〇万円の返済を受け、又、同年一一月二九日に、同月一日に貸付けた一五〇万円の返済を受けたが、原告が受領した利息は、同年五月一八日から同年一一月一日までの間に三回にわたり、月三分の割合により合計二二万八、〇〇〇円だけである。

ロ 被告は粋扇の総勘定元帳の借入金勘定のうち、「堀端アツ子から借入れ」又は「堀端アツ子への返済」と記載されているものも原告の貸付分とみなしているが、それが誤まりであることは次のことからも明らかである。

a 堀端アツ子は粋扇の売上げを隠蔽するために売上げを過少評価して計上し、そのごまかした売上げ分は堀端個人が粋扇に貸付けたように記帳し、粋扇に現金の余裕ができたときは貸付金の返済があったように記帳して、経理上の操作をなしていたと思われること。

b そのために、粋扇の支払利息の勘定科目について被告主張の如き利息の計上は全くなされていない。もし、現実に堀端名義の貸付金が金融業をしている原告の貸付金に該当するものとすれば、当然粋扇においては法人税の申告に際し、右貸付金に対する支払利息を損金として計上するはずである。

c 被告自身も、粋扇の昭和四〇年七月一日から同四一年六月三〇日までの事業年度における堀端からの借入金のうち、出所不明の一四〇万円を収入金除外分(売上もれ)と認定して更正決定をなしていること。

ハ 被告は、堀端が昭和四四年六月に八代信用組合から借入れた金員のうち四八〇万円を、原告からの借入金の返済にあてたと主張するが、そのような事実はなく、右金員は粋扇の店舗改造資金に使われたものである。

(2)  合資会社水本商会関係について

原告の水本商会に対する貸付金は、利息を加算して切替えによってふくれ上ったもので、現実に利息が収受されたものではない。原告の有する金銭消費貸借公正証書によって計算すれば、昭和四二年九月における貸付金は四六〇万円であり、貸金元本がこれを超えることはない。

(3)  有限会社木崎製材所関係について

イ 原告が木崎製材所に対して貸付けたのは次の三回だけで、いずれについても元本はもとより遅延利息の支払いも受けていない。

a 昭和三七年八月二七日四二万円弁済期同年一〇月二五日期限後利息日歩三〇銭

b 昭和四〇年九月二五日一四五万円弁済期同年一一月二五日期限後利息前同

c 同年一〇月二六日六二万五、〇〇〇円弁済期同年一二月二五日期現後利息前同

ロ 被告主張の如く木崎製材所が確定申告に一四〇万一、〇〇〇円の利息を計上しているとすれば、それは同社が収益を隠蔽するためか、あるいは計画倒産のための何らかの工作に出たものとしか考えられない。

2. 同第2項の事実中、原告が金融業にかかる帳簿を備付けていなかったことは認めるが、その余の事実は全て否認する。

第三、証拠

一、原告

1. 甲第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし三、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一〇号証の一、二、第一一ないし第一四号証、第一五号証の一ないし四、第一六ないし第一九号証、第二〇号証の一、二、第二一号証の一ないし八、第二二号証を各提出。

2. 証人片山弘(一、二回)、同堀端アツ子、同岩崎氾、同竹内良治の各証言、原告本人尋問の結果を各援用。

3. 乙第二ないし第四号証、第六、第七号証、第八号証の一、第一二号証の成立は認めるが、乙第八号証の二、三については原本の存在並びにその成立は不知。その余の乙号各証の成立はいずれも不知。

二、被告

1. 乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六、第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証の一、二、第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし四、第一二号証を各提出。

2. 証人藤田英雄、同宮永元義(一、二回)、同木崎隆男、同礒部秀男の各証言を援用。

3. 甲第二〇号証の一、二の原本の存在とその成立を認める。その余の甲号各証の成立は全て認める。

理由

一、請求原因第1、2項の事実は当事者間に争いがなく、被告の主張第1項の事実については、原告の事業所得のうち、堀端アツ子からの昭和四〇年及び四一年分、水本商会からの昭和三九年ないし四一年分、木崎製材所からの昭和四〇年分の各利息収入額を除き、当事者間に争いがない。

二、そして、証人宮永元義の証言(第一回)によれば、原告には金融業にかかる帳簿書類の備付けが全くなかった(この事実は当事者間に争いがない)ため、被告は右堀端ら、原告の貸付先を個別に調査して、貸付事実及び原告への利息支払いの事実を認定した上で、原告の利息収入額を算出したことが認められるが、以下前記堀端ら争いのある三件について、被告の右調査認定に際して原告の収入を過大に認定した違法があるかどうか検討する。

三、堀端アツ子分について

成立に争いのない乙第二、第三号証、証人宮永元義(第一回)及び同堀端アツ子(後記措信しない部分を除く)の各証言、右各証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証によれば、堀端アツ子は昭和三八年七月から有限会社観光喫茶粋扇の代表取締役となったが、前経営者の訴外海藤孫次が原告から金員を借入れていたのを引継ぎ、右堀端も原告から経営資金を借入れたうえ、それを更に粋扇に貸付ける形をとっていたこと、そのため粋扇の総勘定元帳には、原告からの借入金は「堀端アツ子から借入れ」あるいは直接「水野から借入れ」と記載してあり、返済についても同様に「堀端アツ子へ返済」あるいは直接に「水野へ返済」と記載していたこと、右借入金に対する利息は昭和四〇年以降は月六分の約定であり、堀端は毎月この割合の利息を原告に支払っていたこと、なお右総勘定元帳の記載中昭和四〇年六月三〇日及び昭和四一年六月三〇日の欄にそれぞれ「堀端アツ子分仮払金外と相殺」、「堀端分材料仕入に修正」と記載されている部分は、右粋扇の借入金を表面上零とするために帳簿上の操作をなしたもので、実際には原告には返済されずに、借入金残として次に述べる昭和四四年六月の完済時まで残されていたことが認められ、又成立に争いのない乙第八号証の一、証人宮永元義(第一、二回)及び同岩崎氾の各証言、右宮永の証言(第二回)により原本の存在とその真正な成立の認められる乙第八号証の二、三によれば、堀端は昭和四四年六月二五日に訴外八代信用組合から五〇〇万円の貸付けを受けて、その利息を差引いた四八〇万円を原告からの借入金元本の残存分の返済にあて、これを完済したことが認められる。以上認定に反する証人堀端アツ子の証言部分及び原告本人尋問の結果は措信しがたく、成立に争いのない甲第二一号証の一ないし八の存在も右認定を覆すに足るものではない。なお、証人堀端アツ子は、前記乙第二、第三号証の内容は前記宮永が勝手に作出した虚偽のものである旨証言するが、同証言は右宮永の証言(第二回)並びに右各号証の記載内容及びその体裁、特にいずれにも堀端の署名押印がなされていることに照して措信できない。

又、原告は、堀端が八代信用組合から融資を受けた五〇〇万円は粋扇の店舗改造資金として使用されたものであると主張し、証人堀端アツ子の証言中には右主張に添う部分が存するが、証人竹内良治の証言によれば粋扇の店舗改造については、昭和四五年二月に初めて改造工事の注文があり、同年五月に完工し、代金五〇〇万円は同年四月以降三回に分割して支払われたことが認められ、何らかの事情から工事が遅延したのであればともかく、そのような事情の認められない本件では、右工事のために前年の六月から資金の融資を受けておくことは通常考えられず、前記認定を左右しえない。

又、被告が粋扇の昭和四〇年七月一日から昭和四一年六月三〇日までの事業年度において、堀端からの借入金としているもののうち、一四〇万円を収入金除外分と認定したこと(この事実は当事者間に争いがない)は、右一四〇万円が原告からの借入金でないとしたものではないのであって、前記認定を左右するものではない。

そこで前記認定した各事実と乙第一号証の記載をもとに、昭和四〇年、四一年における堀端の原告からの借入れ、その返済、その間の支払利息額(充当の関係が明記されているものはそれに従い、明記されていないものについては借入れの古い順に順次返済されたものと考えるのが相当であり、又、原告本人尋問の結果(前述及び後述の措信しない部分を除く)によれば、貸付けた月及び返済された月も各々一か月として利息を計算していたことが認められる。)の推移をみると別表(六)記載のとおりとなる(なお同表記載の返済年月日は貸付けの古い順に対応させたものであり、仮に途中で一部の貸付金をたな上げして昭和四四年六月に返済したとすると返済年月日は異なることになるが、各月における貸付金残高には相違がないから、利息収入額の合計に変化をきたすことはない。)ことが認められ、従って原告に支払われた利息は昭和四〇年が合計一六九万七、二〇〇円、昭和四一年が合計一八六万三、〇〇〇円であって被告主張のとおりであることが認められる。

四、水本商会分について

1. 成立に争いのない甲第一二ないし第一四号証、乙第四、第六号証、証人藤田英雄の証言によれば、水本商会においては訴外水本英子がその経営を実際に担当し、同人は右経営のために銀行等の金融機関だけでなく、原告のような金融業者からも資金を借入れ、原告との取引関係は、昭和三六年ごろから存し、昭和三九年以降原告からの借入れが漸増し、昭和三九年末には借入金残高が七〇〇万円、同四一年には一時一、〇〇〇万円にも達し同年末には八〇〇万円残存していたこと、その他に訴外木下藤吉が水本商会に貸付け原告に債権譲渡した五〇万円の借入金があり、昭和三九年一月以降日歩三〇銭の割合の利息を原告に支払っていたが水本英子の夫の訴外水本澄夫がこれに気付いて原告に五〇万円を返済したこと、右五〇万円の分を除いて原告からの借入金の利息は日歩二〇銭であって、水本英子は右利息を昭和四一年の後半ごろまでは他所から借入れるなどして現実に支払い、原告に対する支払利息の合計額は昭和三九年に約五〇〇万円、昭和四〇年には約八〇〇万円、昭和四一年には約一、〇〇〇万円に達すること、そして右原告への利息支払いにあてた他所からの借入金の返済のために更に原告から借入れをするといったことの結果、原告からの借入金は増大し、結局その金利の支払いに行きづまり、かつ又、原告からの担保提供の要求を受けて、昭和四一年八月ごろから訴外肥後農林株式会社の手形を偽造して使用するにまで至ったことが認められる。

右認定に反する原告本人尋問の結果及び成立に争いのない甲第一〇号証の一における原告本人の供述はいずれも措信しがたく、証人片山弘の証言(第一、二回)も右認定を覆すに足るものでない。原告は、右水本商会に対する貸付金は利息を元本に組入れて切替えていったため額面が大きくなったもので、現実に利息が収受されたものでなく、実際の貸付額は、甲第一五号証の一ないし四の公正証書の合計額四六〇万円を越えることがない旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に添う部分も存するが、これは前記各証拠に照して措信しがたく、又前記片山弘の証言(第一回)に照しても、貸付額が公正証書に記載された額に止まると解することはできない。

2. そして、証人藤田英雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、水本商会にも資料となる帳簿類がなかったため、被告は前記認定事実を基礎として、前記木下から原告が譲受けた五〇万円については昭和三九年五月に水本澄夫から原告に返済されたものとし、同年末に残っていた七〇〇万円の借入金については、年の中途である同年六月に貸付けられ、昭和四二年以降まで減少することなく継続していたものと認定し、又、昭和四一年末には八〇〇万円の借入金があり、かつ同年中に約一、〇〇〇万円の利息が支払われたということから、少なくとも同年一月以降貸付額が八〇〇万円となったものと認定したうえ、原告と前記片山弘とで昭和四一年一月に設立した訴外たまる商事有限会社(この事実は成立に争いのない乙第一二号証により認められる)の申告分を考慮に加えて、別表(五)のとおり原告の利息収入額を算定したことが認められる。

被告の右計算は、原告、水本商会のいずれにも資料となる帳簿等が存在しない本件では妥当なものと解され、しかも前記認定した事実を基礎として原告に有利に計算されたものと認められ、原告の収入を過大に認定したものということはできない。

五、木崎製材所分について

証人礒部季男の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証の一ないし三、同第九号証の一、二、同第一〇号証の一、二、同証人及び証人木崎隆男の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の一ないし四、証人礒部季男の証言によれば、右木崎製材所の昭和四〇年における原告からの借入金は、前年からの継続分の五〇万円と、昭和四〇年二月二三日に借受けた一一五万円の合計一六五万円で、同年中にその利息として合計一四〇万一、〇〇〇円を支払ったことが認められる。右認定に反する原告本人尋問の結果は措信できず、又、成立に争いのない甲第一六ないし第一九号証からは、訴外木崎勲個人が原告から同各号証記載の金員を借用していた事実を認定できても、木崎製材所が原告に支払った利息額についての右認定を左右するものでなく、証人片山弘の証言(第一回)も右認定を覆すに足るものでない。

又原告は、右木崎製材所に収益隠蔽もしくは計画倒産の疑いがあるかの如き主張をなしているが、本件全証拠からは右事実の存在は全く認めることができない。

六、以上いずれにおいても、被告の計算には原告の利息収入を過大に認定した違法は認められず、原告の事業所得額はいずれも被告主張のとおりであって、本件各再更正処分(昭和四六年四月三〇日付の審査裁決によって取消された部分を除く)はいずれも適法になされたものということができる。

そして、成立に争いのない乙第七号証、前記証人宮永元義(第一回)、同藤田英雄の各証言によれば、原告は金融業にかかる帳簿書類等を全く備付けてない(この事実は当事者間に争いがない)ばかりでなく、貸付に際し一応は借用証書を作成するものの、貸付金の返済を受けると右証書を自分で破棄したり、あるいは貸付先に破棄させたりして、貸付事実の証拠が残らないようにしていたこと、被告係官による所得調査を受けた際、前記粋扇との取引が全然ない旨虚偽の回答をなしたことが認められ、右事実及び弁論の全趣旨によれば、原告は貸付事実の大部分を隠蔽して本件各年度の確定申告をなしていたものと認められ、これに反する原告本人尋問の結果は措信できない。

とすると、被告が国税通則法六八条一項により重加算税賦課の決定をなしたことは適法であって、その額においても、本件の審査裁決によって決定された各年度の重加算税額が、前叙認定した被告主張にかかる事業所得額を基礎として計算される金額の範囲内に止まることは明らかであるから、本件各重加算税賦課決定処分に違法はない。

七、よって、被告のなした本件各処分はいずれも適法であり、原告の本訴各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田冨士也 裁判官 関野杜滋子 裁判官 西島幸夫)

別表 (一)

〈省略〉

別表 (二)

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別表 (三)

昭和三九年分

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昭和四〇年分

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昭和四一年分

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別表 (四)

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別表 (五)

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別表 (六)

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